自分を好きになる話

第二話

 次の日の放課後。

 今日は朝から澄んだ青空が広がっていた。

昨日はあんなに降ったのに、気分屋だなあ。

なーんて、帰りの準備をしながら空に皮肉を言った。

もとはといえば悩みを思い出させたのはこの雨だ。

 「しーずく。どーしたん?」

 美空がまた後ろの席から何か話しかけられていたら

しい。

 「ごめんボーっとしてた。」

 「もー、ちゃんと話聞いてよね。」

 「はーい」

 もちろん考えてるのは昨日からずっと同じこと。

 モヤモヤは大きくなるばかりで、いくら考えたって

消えていかない。 

 授業中もずっと考えた。

 学校二日目だから、教科の先生の紹介もあったけど、

誰一人名前も顔も覚えてない。

 こんなこと、悩んだって仕方ない、考え方を変える

しか無いってわかってる。

 それでも難しいんだ。頭じゃわかっていても心が言

うことを聞かない。

 とか、どっかで聞いたことあるような台詞を浮かべ

てしまった。我ながらちょっとイタい。

 モヤモヤは収まらないし、ふえるし、イタいし、も

ういやだ。

 考えるのもめんどくさくなって、机に突っ伏した。

でもモヤモヤが気になって、机の木の模様を見ながら

考えてみる。

 それでも一向に答えなんかでなくて、なんか悪いこ

とが続いてる…これ、無限ループなやつだ。

 多分さっきから数分くらいは時間がたっている。

例の、気づけば時間が経ってる現象だ。それは時間が

もったいない。

 ついに切り替えて顔を上げた。

 そしたら、そこに美空の可愛い顔はなかった。

代わりにあったのは、昨日の昼に見たとてつもなくき

れいな顔だった。

 ガタガタッドスン!

 思わず椅子から立ちあがって、その勢いで椅子と一

緒に床に転げた。

 驚きと羞恥心で、何故かすぐには立ち上がれなかっ

た。あれ?こういうときってすぐバッて立ち上がるも

んだと思ってたのにな。まあとにかく今は立たなきゃ。

と、私が立とうとした瞬間、

 「ふふっ、あはっあははは!」

 目の前のきれいな顔が、目を糸のように細めて、

大きく口を開いて笑ってる。

 現状に気づいた私は、急いで声を出す。

 「え、ど、どうし…あ、ごめ、ごめんね!どう考え

てもしつれ」

 「違うよ、面白かったから。私を見た瞬間後ろに飛

び跳ねた野々原さんが面白くて。」

 どうやらテンパった私が面白かったらしい。

たしかに、はたから見たらただの変なバカだ。

 彼女はよっぽど面白かったのか、目に滲んだ涙を白

い手の甲で拭っていた。

 「あ、ごめん、むしろこっちが失礼だったね。

急に知らない人が居たらびっくりするよね。ほんと、

ごめん。」

 「え?う、いや、ううん!ううん、全然大丈夫。

気にしてないよ!」

 「そう?それならよかった。」

 噛みすぎだ。自分でも緊張してるのがわかる。

どんなイケメンを前にしたって、椅子から転げ落ちる

なんてことはない。

 自分は意外と緊張をするタイプではない。

どちらかというと緊張してガッチガチの友達を元気づ

けるタイプだ。

 なのに今の自分は、ただのコミュ障だ。

ガッチガチに固まって、噛みまくって、うまく言葉も

言えない上に言ってることもちょっとおかしい。
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