指先から溢れる、隠れた本能。
第二章:抑制と偶然の発覚
再検査の結果を告げられる日、私は病院の待合室に座っていた。
白い壁に囲まれた空間は、消毒液の匂いと、時折響く看護師の呼び出し声で満たされている。手に握った予約票は、緊張でわずかに汗ばんでいた。
窓の外では、秋の陽光がビルのガラスに反射し、淡い光が待合室の床に揺れている。私の心は、まるでその光のように不安定に揺れていた。検査結果が何を意味するのか、どんな言葉が私を待っているのか──その想像だけで、胸の奥が締め付けられるようだった。
「村松六花さん、どうぞ」
看護師の声に、私は小さく息を吸い、診察室のドアを開けた。医師は白衣の袖を軽く整え、穏やかな口調で話し始めた。デスクの上には、私の検査結果が記された紙が置かれている。
「村松六花さん。あなたの体は、一般的な感受性よりも強く、特定の刺激に対して非常に敏感に反応しています」
「……敏感、ですか?」
私の声は小さく、どこか頼りなげだった。医師は眼鏡の位置を直し、落ち着いた声で続ける。
「はい。心理的・身体的な反応を総合すると、あなたの場合、『sub』傾向が強い状態になります。この特性は、特定の条件下で心身が過剰に反応するものです。適切なパートナーがいると、心身ともに安定する傾向がありますが……現在、恋人や親しい方は?」
「い、いないです」
頬が熱くなるのを感じ、視線を落とした。『sub』という言葉が、心に小さな衝撃を与えた。
ドラマや小説の中で耳にしたことはあったが、それが自分に当てはまるなんて、まるで現実感のない話だった。人口のほんの一割程度しか持たないと言われるこの性質が、なぜ私に? 頭の中で疑問が渦巻き、胸のざわめきがさらに強くなる。
医師は一瞬、私の表情を観察してから、小さなプラスチックケースを差し出した。ケースの中には、白い錠剤が整然と並んでいる。