指先から溢れる、隠れた本能。


「これは抑制剤です。この薬を服用することで、過剰な反応をある程度抑えられます。必ず、指示通りに服用してください。飲み忘れがあると、症状が強く出る場合があります」

「薬を飲めば……普通に過ごせるってことですか?」

「個人差はありますが、基本的にはそうです。ただし、無理に自分を変えようとせず、薬と正しいパートナーとのバランスを取ることが重要です。まずは、日常生活で様子を見てください」


 私は小さく頷き、医師の言葉を頭の中で反芻した。抑制剤という言葉に、どこか冷たい響きを感じながらも、薬局で処方された錠剤を受け取り、バッグの奥にそっとしまった。帰り道、街を染める夕陽がやけにまぶしく、私の心には新たな不安と期待が混じる予感が芽生えていた。

 数日後、私はいつも通りオフィスに出勤していた。朝のルーティンをこなし、デスクに座ってパソコンを立ち上げる。だが、この日は朝の慌ただしさの中で、抑制剤を飲み忘れてしまったことに気づいたのは、すでに昼近くになってからだった。



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