頭ポンポンはセクハラです!~不器用地味子の恋のお相手~
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 午後の仕事は散々だった。まずは会議の準備がギリギリになってしまって焦った。議事録も不備があり注意を受けた。
 会議終了後通常業務に戻ってからも、タイプミスなどの凡ミスが立て続いた。
 ーー理人くん、告白されてた。
 そのことが心を波立たせた。
 頭撫でてあげてた。私にはそんなことしたことないのに。
 となると、考えられることはひとつ。
 きっと、田辺さんのほうがかわいい子だから、理人くんは告白を受けたんだ。
 私は目頭が熱くなってきた。涙が零れないように指で瞼を押さえた。仕事に集中しなければならない。頭を早く切り替えよう。
 三ヶ月もったなんて、最高記録じゃん。すごいすごい。
 そう心の中でおどけてみせても、全く心は浮上しなかった。
 普段ほとんどミスのない私の今日の状態をさすがに部署の人たちもおかしいと思ったらしい。「具合が悪いんじゃないか」「早退したら?」などと言ってくれたが、かえってそれが罪悪感に拍車をかけてしまい、無理に残業までして業務を終わらせた。
 会社のエントランスを出ると、夜の八時を過ぎていた。
「実花」
「きゃっ!?」
 エントランスを出てすぐの所で声を掛けられ、私は思わず悲鳴を上げた。理人くんは「ごめん!」と言いながら口にしーっと指を当てた。私は両手で自分の口を押さえた。
「びっくりした。どしたの。理人くんも残業?」
 あ、もう「理人くん」なんて馴れ馴れしく呼ばないほうがいいかな。
 そう思うとまた目が熱くなってきた。私は顔を隠すように俯いた。その肩を掴まれた。
 理人くんは「待ってた」と一言答えたあと、焦ったように話はじめた。
「お昼の、実花、誤解してるんじゃないかと思って、心配で、それで」
 理人くんは息せき切って訴えてくる。私はまた涙が出そうになるのを堪えた。
「……あの子と付き合うの?」
 下を向いたままなんとかそう言うと、理人くんは「あー、やっぱり!」と額を手の平で叩いた。
「付き合うわけないだろ。俺実花と付き合ってんだし」
「別れれば付き合えるよ?」
「だから、なんで! 実花と別れなきゃならねえんだよ」
 私は小首を傾げた。
「田辺さんと付き合うことにしたわけじゃないの……?」
「ねえよ!」
 叫ぶと、理人くんは私の腕を掴んで引き寄せた。ぎゅっと抱き締められる。
「告白されたけど、断った! 大好きな彼女がいるって言って。そしたら『じゃあ諦めるんで、これからも仕事頑張れるように頭いいこいいこしてください』とか言われたからしただけだから。指導相手の子のモチベーション削ぐわけにはいかないかと思って」
 そして理人くんは息を吸い込んだ。
「ほんとはやりたくなかったけど! 誤解されるようなことは!」
「セクハラだって?」
 私は涙に濡れた顔を上げて尋ねた。理人くんは「ちげーよ!」とため息交じりに呟いた。「実花にこういうふうに誤解されるかもって思ったからだよ! てか、やっぱり誤解してるし! ごめん! 俺が好きなの実花だけだから!」
 立て続けに訴えられて、私はまた頭が混乱してきた。

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