頭ポンポンはセクハラです!~不器用地味子の恋のお相手~
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「じゃあ俺らもう行くから。お前らゆっくり食ってけよ」
 理人くんは立ち上がった。私も慌てて立ち上がる。田辺さんにぺこりと頭を下げた。田辺さんはむっとした表情を隠すことはなく、それでも先輩である私に頭を下げた。
 帰り道は会話が弾まなかった。いや、私が一方的に言葉少なめだった。理人くんが戸惑っているのはわかったが、どうしてももやもやが収まらなかった。
「実花? 具合でも悪い?」
 心配そうにそう問われて、はっと我に返った。
 駄目じゃん、理人くんに心配かけちゃ。理人くんは何も悪くないのに。
 雨脚は強くなってきていた。私を見下ろす理人くんの顔が傘で暗く陰った。
 私はぱしんと両手で自分の頬を叩いた。そして、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫! なんでもないよ」
 けれど理人くんの表情は曇ったままだった。「俺の前で無理するなよ。何? 田辺と知り合いだった?」
 どうやら田辺さんにもやもやしていることは通じていたらしい。田辺さんの自分への好意には気付いていないみたいだが。
 私は逡巡した。が、思い切って言ってみることにした。
「知り合いじゃないけど……。もしかして田辺さん、理人くんのこと好きなんじゃないかな?」
「は?」
 理人くんは目を見開いて口をぽかんと開けた。完全に気付いていなかったようだ。
「いや、特に何も言われてないけど?」
 理人くん的には告白されていなければ好かれていない、ということなのだろうか。「好き」ってそんな簡単な感情じゃないのに。
 私は「これから告白するつもりなんじゃない?」と言いかけて、慌てて口を噤んだ。胸がどくどくと早鐘を打ち始める。
「言われてない」から田辺さんのことはなんとも思っていない。つまり、田辺さんが理人くんに告白すれば、理人くんは田辺さんを意識してしまう。
 ーーいや!
 急に沸き上がった気持ちの強さに自分で動揺する。が、そんなことには構っていられない。
 理人くんを取られたくない。
 私はぎゅっと拳を握りしめた後、理人くんを見上げた。
「そ、そっかー。私の勘違いだね。理人くんカッコいいから心配になっちゃって」
 私は目一杯明るく笑顔を作った。
「嫉妬しちゃったみたい、ごめんね!」
 理人くんは何も答えない。無言でこちらを見つめていた。私は心配になってきた。
「り、理人く……」
 その言葉は途中で彼の口の中に飲まれた。
 顔を隠すように傾けられた傘の中で、初めてのキスをした。

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