【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
　言われて思い浮かぶのは、スーツ姿で背筋の伸びたバリキャリだった。
　私とは程遠いイメージだ。

「え、ちょっと待って。それって、就活失敗続きの彼女が可哀想だからって話？」
「ちげーよ。俺は本気だし、ちゃんと戦力として期待してる」
　
　裕貴はきっぱりと否定し、私の目をまっすぐに見た。

「今、会社がバタついててさ。俺、時間にルーズなのもあるし、段取りも苦手だし。おまえが支えてくれたら、すごく助かるんだけど」

　裕貴は、穂鷹(ほだか)出版の社長だ。
　二十八歳という若さで社長になったのは、前社長……裕貴の父親が引退したため。
　穂鷹出版は、数々の有名な作家を輩出した出版社で、大手と言っても遜色ない規模。
　裕貴の父親が会長兼相談役とはいえ、きっと若さ故に大変なこともあるのだろう。
　
「秘書……。私にできるかな？」
「できるできる！　おまえってそういうところは真面目じゃん。それに、安浦(やすうら)先生の小説好きだっただろ？　もしかしたら何かの機会に会えるかもよ」

　安浦先生！？
　名前を聞いただけで、心臓が跳ね上がった。
　安浦(やすうら)栄次郎(えいじろう)先生。穂鷹出版で数々のミステリーを生み出した大御所作家だ。
　六十八歳という年齢なので、そろそろ引退か、なんて噂も囁かれている。
　
「もちろん、嫌なら断ってくれてもいいんだけど」

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