【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。


「ちょっと寄っていい? 喉、乾いた」
「どうぞ」

 玄関の鍵を開けると、裕貴は慣れた様子で靴を脱いで上がり、さっさと冷蔵庫を開けてビールを取り出す。

「ちょっと、車でしょ?」
「泊まってく」
「もう、また?」
「だって、しのぶの手料理うまいんだもん」

 軽口を叩きながら、裕貴はビールを一本こちらに投げてよこす。仕方なく受け取って、私も着替えを済ませてからソファに腰を下ろした。プルタブを引いて、ぐいっと喉を潤す。

「裕貴はいいよね。出版社の社長さんなんだもん。私なんて、いくら面接受けても全然ダメ」
「えらく拗ねたな」
「だって本当のことだし。もう、私もしのぶ出版でも作っちゃおうかな〜」
「お、それいいな。企画持ってくよ」

 冗談を言う声が、いつもより少しだけ柔らかい。
 私もつられて笑い、缶をテーブルに置いた。

「……なあ、しのぶ。ちょっと、提案があるんだけど」
「ん?」

 ほろ酔い気分のまま答えると、裕貴は背もたれに体を預けながら軽い調子で言った。
 
「おまえが良ければ、俺の秘書やってくんない?」
「秘書?」

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