【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 こうして、私は数ヶ月かけて原稿を完成させ、安浦先生に読んでもらう日が来た。
 目の前で読まれるなんて、恥ずかしさと緊張で手汗がひどい。
 先生は、数枚読んだところで「ふむ……」と、顎髭を撫でた。
 
「ふぅむ……。少々粗はあるが、なかなかいいね」
「あ、ありがとうございます……!」

 数枚読んだだけでわかるものなのか。
 さすがは安浦先生だ。

「僕も読ませてもらったけど、面白かったよ」

 桐人さんが、テーブルにコーヒーを置きながら言う。
 自分の作品を褒められることが、こんなにも嬉しいなんて。
 
「父さん、これを使って、穂鷹社長を見返してやれないかな……?」
「ううむ、陽瑛出版に話を持っていってみるか……。もちろん、書籍化できるかどうかは陽瑛さん次第だけどね……」

 書籍化しなくともできる報復のパターンも考えていたが、もし本になったら、それは何よりも強い証になる。
 
「それでさ、父さんの出版記念パーティーで……」
「ほう、それなら……」

 安浦先生は、まるでご自身のミステリー作品に出てくる犯人のような、悪い顔で笑った。

< 48 / 61 >

この作品をシェア

pagetop