【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「では……」
 
 安浦先生が裕貴に電話をかける。作戦通り、先生がパーティーのことを切り出した。
 先生が通話を終えたその直後、私のスマホがぶるぶると震え出す。……早すぎる!
 覚悟を決め、深呼吸して通話ボタンを押した。
 
「もしも──」
『しのぶ! おまえ今、どこにいるんだ!?』
 
 言い切る前に、耳をつんざくような怒鳴り声。思わずスマホを耳から離した。
 
「どこにいるかは答えられない」
『ふざけんな! 退職届は受理してないって前にメッセージ入れただろ! さっさと戻ってこい!』
 
 裕貴の声は大きすぎて、当然そばにいる二人の耳にも届いている。
 安浦先生は、目を閉じて黙って聞いている。もしかしたら、落胆しているのかもしれない。
 
『今度、安浦先生の出版記念パーティーがあるんだよ! ほら、おまえの大好きな先生だ! 俺と一緒なら参加できるぞ!』
 
 まるで、私の原稿を破り捨てたことなどなかったかのように。
 恩着せがましい言葉を並べる裕貴に、血の気が引く。
 この人は、いつまで経っても自分本位なのだと、ようやくわかった。

「断るわ」
『はぁ? なに勝手なこと言ってるんだよ。俺の婚約者なんだから、言うことを聞くのは当たり前だろ!』
 
 その言葉で、胸の奥が冷たく凍りついた。
 まだ、婚約者だと思っているの──?
 
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