【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

7・報復

 六月下旬、また憂鬱な梅雨がやってくる。
 私が安浦家にお世話になってから、一年が過ぎようとしていた。
 今日は、安浦栄次郎の出版記念パーティーだ。
 ホテルの大広間に、穂鷹出版の重役たちや、他の先生方、新聞記者らしき人たちが集まる。
 当然、社長である裕貴も出席する。きっとまだ怒っているだろう。

 私は、着慣れないセレモニースーツを着て、衝立の裏側で緊張しながら立っていた。
 桐人さんも、チャコールグレーのスーツがよく似合っている。
 緊張が伝わったのか、桐人さんが、優しく肩を抱いてくれた。
 
「しのぶさん」

 仮初の婚約を結んだ日から、桐人さんはそう呼ぶようになった。その響きに、まだ慣れない自分がいる。

「大丈夫です。僕と父に任せてください」

 肩に触れる手の力が、ぐっと込められた。
 そこから伝わってくる温かさで、少しずつ緊張がほぐれていく。
 桐人さんといると……安心する。
 
「安浦先生、おめでとうございます!」

 衝立の向こうで、裕貴の声が聞こえた。
 心臓が、ズキリと痛む。

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