【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
先生が軽く頭を下げると、来賓の方々の拍手が雨の音のように会場に広がった。
新聞記者たちが、カメラのシャッターを切る音も聞こえてくる。
私は、ここからが本番だ、と桐人さんのスーツの裾を握りしめてしまっていた。
心臓の音が鳴り止まない。
「ところで、本日はもうひとつめでたいことがありまして、この場を借りて紹介させていただきたい。実は、私の弟子が陽瑛出版での書籍デビューが決まりました」
今日は穂鷹出版のパーティーだというのに、何を言い出すのだと、会場中の空気が張り詰めた。しかし、誰も何も言えないのは、安浦栄次郎という人物が重鎮だからだろう。
ざわつく中、安浦先生は気にせずに話を続ける。
「皆さんもご存知のとおり、私は一年ほど前入院しておりまして。彼女は、その間とても親身になってくれた。何か礼がしたいと言ったら、書いた小説を見てほしいと言ってきましてな。ところが、不運にも彼女の元婚約者に、その原稿を破り捨てられ、あまつさえデータまで消されてしまったということがあったそうです。しかし彼女はそのショックを乗り越えて、再度原稿を書き上げました。読んでみたら、これがまた面白い」
先生は笑いながら言うと、再び衝立の方を見て、そちらに来賓の視線が行くよう促した。
「では、紹介しましょう。私の弟子、真宮しのぶと、書籍『黒猫カルーニャの気まぐれ』」
安浦先生に呼ばれて、私は衝立の裏から書籍を持って壇上に登った。
新聞記者たちのカメラのフラッシュが眩しい。
でも、これでやっと表舞台に立てる。
「しのぶ……ッ!? おまえ、今までどこに行って……!!」
案の定、裕貴は半ば取り乱しながら近づいてきて、私の肩を掴もうとした。
心臓が痛い。乱暴にわし掴みされたような感覚だった。
しかし、間に桐人さんが入り、その手を払いのける。
「僕の婚約者が、何か失礼を?」
「ふざけるな! 婚約者はオ──」
言いかけて、裕貴は口を噤んだ。
新聞記者たちが、カメラのシャッターを切る音も聞こえてくる。
私は、ここからが本番だ、と桐人さんのスーツの裾を握りしめてしまっていた。
心臓の音が鳴り止まない。
「ところで、本日はもうひとつめでたいことがありまして、この場を借りて紹介させていただきたい。実は、私の弟子が陽瑛出版での書籍デビューが決まりました」
今日は穂鷹出版のパーティーだというのに、何を言い出すのだと、会場中の空気が張り詰めた。しかし、誰も何も言えないのは、安浦栄次郎という人物が重鎮だからだろう。
ざわつく中、安浦先生は気にせずに話を続ける。
「皆さんもご存知のとおり、私は一年ほど前入院しておりまして。彼女は、その間とても親身になってくれた。何か礼がしたいと言ったら、書いた小説を見てほしいと言ってきましてな。ところが、不運にも彼女の元婚約者に、その原稿を破り捨てられ、あまつさえデータまで消されてしまったということがあったそうです。しかし彼女はそのショックを乗り越えて、再度原稿を書き上げました。読んでみたら、これがまた面白い」
先生は笑いながら言うと、再び衝立の方を見て、そちらに来賓の視線が行くよう促した。
「では、紹介しましょう。私の弟子、真宮しのぶと、書籍『黒猫カルーニャの気まぐれ』」
安浦先生に呼ばれて、私は衝立の裏から書籍を持って壇上に登った。
新聞記者たちのカメラのフラッシュが眩しい。
でも、これでやっと表舞台に立てる。
「しのぶ……ッ!? おまえ、今までどこに行って……!!」
案の定、裕貴は半ば取り乱しながら近づいてきて、私の肩を掴もうとした。
心臓が痛い。乱暴にわし掴みされたような感覚だった。
しかし、間に桐人さんが入り、その手を払いのける。
「僕の婚約者が、何か失礼を?」
「ふざけるな! 婚約者はオ──」
言いかけて、裕貴は口を噤んだ。