【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

エピローグ

 パーティーから数日が過ぎた。
 あれから、私の心が晴れやかになったかというと、そうでもない。
 確かに私はあれで裕貴を見返すことができた。その瞬間だけは、胸がスッとした。

 わかっていた。報復を終えた後は、虚しさだけが残ると。
 見返したって、裕貴が私にしたことをなかったことにできるわけではない。
 それでも、私が前に進むためには必要なことだったと、自分自身に言い聞かせるしかなかった。
 
 安浦先生から聞いた話だが、あれから裕貴は、父親である穂鷹会長にいたく叱られたそうだ。社内会議にまで発展し、浮気をしていたことも明るみに出たらしい。結局、社長を辞任して他の出版会社でイチから修行し直すことになった。けれど、そんなことはもうどうでもよかった。
 
 私は、次へ進むために、また新しい物語を綴るだろう。
 しかしその前に、決断しなければならないことがあった。
 
「桐人さん、お世話になりました。私、この家を出ようと思います」
「……えっ?」

 朝食の後、リビングでコーヒーを飲んでいた桐人さんの前で頭を下げる。
 安浦先生は書斎に籠ってしまったので、まずは桐人さんだけに挨拶をした。
 数日後には、家政婦の杉田さんも戻ってくる。
 小説を書籍化して、裕貴を見返すことができた。
 私がここにいる理由は、もうない。
 桐人さんは音を立ててカップを置くと、目を見開いて私を見た。

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