マリオネット
「痛っ……」
 あっ、ヒール折れちゃった。

「ごめんなさい。藤崎先輩、私、上司の近くにいたから、強引に飲めって勧められて……。そしたら飲みすぎちゃったみたいで……。フラフラしちゃって先輩に……」
 そう言って彼女は泣き出した。

 んっ?本当に泣いてる?
 涙出てないような気がするけど。
 まさか、泣いたフリをしているの?

 こうくるとは思わなかった。
 泣いている彼女の方へ視線が行き、転んでいる私に手を差し伸べてくれる人は誰もいなかった。
 私は一人で立ち上がる。
 片方のパンプスはもう使えず、片足は何も履かずストッキングだけで立っている惨めな状態だ。

「私は大丈夫。坂本さん、そんなにフラフラしているなら、早く帰った方がいいよ」

「そうだな、早く帰ろう。俺、おんぶするから、肩に掴まって。そんなフラフラじゃ歩けないでしょ」
 
 彼氏である土屋さんがしゃがみ込み、背中に乗ってと伝える。
「いやだ、重いもん!」
 演技だろうか、坂本さんは恥ずかしがっていた。

「大丈夫だよ、土屋さんに任せなよ」
 酒井さんが声をかける。
「うん、わかった」
 坂本さんは土屋さんの後ろにしっかりと掴まった。

「亮ちゃん、力持ち!」
 そう言って、ギュッと彼に掴まっている。
 土屋さんの下の名前、亮って言うんだ。

 すると彼女は、今度は私の心配を始めた。

「先輩はどうするんですか?そんな靴じゃ帰れないじゃないですか?」

 確かに普通なら、片足がほぼ裸足の状態で帰れるわけがない。
 途中で靴を買ったりするのが当たり前だろう。
 
 さっきまで普通に立っていたのに、あのタイミングで勢い良くぶつかるって。
 私の心が汚いからか、故意だったんじゃないかという疑問が拭えない。
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