黒百合の女帝
 「ところでラクア、私もこれ似合ってるかな?」

ユリは再び席に着き、腕時計を見せてくる。

俺が渡した、ピンクゴールドの腕時計。

華奢なそれは、彼女が巻くだけで上品に見える。

 「似合ってる。とんでもなく」

真顔でそう言えば、虚を突かれた顔になるユリ。

そして面白かったのか、控え目に笑い出した。

 「ありがとう。まさか私宛てとは思ってなかったけど、大事にするね。」

そう言うと、ユリは腕時計にそっと触れた。

この瞬間を、永遠に過ごしていたい。

そんな風に考えた矢先に、あっ、とユリが呟く。

 「ずっと気になってたんだけど……水母、付けてないんだね。」

なんの意図も含まれていない、雑談の筈。

にも拘らず、ふと思考が停止する。

気付いてたのか……でも。

でも、それはお互い様だろう?

一日中、脳裏にチラついていた邪険な思考。

ずっと抑圧して、知らないふりをしていた。

けれど、一度暴れ出したら手が付けられない。

視線は自然とユリの耳元に行き、一層彼女が憎らしくなる。

ユリだって、今はリングピアスを付けている。

それはアイツとの思い出の方が、俺よりも大事だから。

自覚なしに、そんな本心を表しているんだろう?
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