黒百合の女帝
 そう話しながら、ボレロを羽織るユリさん。

しかし突如として、彼女の顔付きが険しくなる。

俺が反応する前に、彼女が俺の背中に回った。

 「えっ、どうしたんですかっ?」

 「黙って右隣の服屋に入って。」

声を潜め、背中越しに命令してくるユリさん。

挙動不審な彼女に狼狽えつつ、指示に従う。

その店は、学生には敷居の高い高級店だった。

奥まで進むと、ようやっと彼女が離れる。

それを惜しく思う感情からは、目を逸らした。

 「ちょ、何があったんですか?」

 「同級生が居た。」

 「ああ、そういうことですか」

納得を示す為、その澄ました顔に向かって頷く。

俺と居る所を見られ、誤解を生むのが嫌なのだ。

ただ、なぜ今、胸の奥が騒々しいのだろうか。

少し考えたのち、彼女と同じだろうと考える。

彼女の同級生にそういう風に勘違いされる。

そんな想像に、俺も気分を害したのだろう。

そう結論を付け、嫌気について考えるのは辞めた。

 「どうします?帽子もついでに買いますか?」

 「そうだね。なら是非とも買わせてあげる。」

 「結局奢らせる気じゃないですか」
< 443 / 605 >

この作品をシェア

pagetop