黒百合の女帝
 「あれっ、カヤさん爪剥がれてる〜?それともそういうネイル?」

聞き覚えのある声に、瞑っていた目を開ける。

涙でほとんどわからない視界の中。

派手なオレンジ髪と、揺れる黒髪だけが見えた。

その名を呼びたい衝動に駆られるが、口を噤む。

やばい奴らの前で、情報を与えちゃいけない。

そんな配慮が浮かぶ程には落ち着いてきていた。


 結局、彼らはものの数分で悪魔を退治してしまった。

ハラの前で泣いたらからかわれる。

ユリさんの前で泣くのはプライドが許さない。

筈なのに、なぜか涙は一向に止まらなかった。

朦朧とした意識の中、ユリさんの声が耳に届く。

 「救急車そろそろ来ると思うから、死なないでね?」
< 504 / 605 >

この作品をシェア

pagetop