黒百合の女帝
 頷きながら、当時のヤナギさんを思い出す。

あの頃は、まさか俺が巻き込まれるとは思ってもいなかった。

今思うと、奇跡とも呼べる程の偶然が……

 「ちょ、もう帰るんですか?」

 「用が出来た。飲み物とかは置いていくから。」

早口で捲し立て、コートを羽織るユリさん。

彼女は支度を済ませると、玄関に出てしまった。

急いで追えば、既に靴まで履いていたユリさん。

彼女は俺に手を振りつつ、ドアに手を掛けた。

 「じゃあねカヤ。爪は半年後には元通りになってるから。」

 「それはヤナギさんにも言われました。あの、それじゃあ明日倉庫行くんで」

 「わかった。また明日。」

ユリさんは慌ただしく言うと、扉の奥に消えてしまった。

彼女が帰っても尚、呆然と玄関に立ち尽くす。

明日から、いつも通りに振る舞えるだろうか。
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