黒百合の女帝
 その時、重い音が部屋に響いた。

痛む掌に、俺がヤナギさんを打ったと気付く。

謝ろうと、咄嗟に顔を上げた。

上げて、思わず息を呑んだ。

ヤナギさんはその場に蹲り、顔を手で覆っていた。

ヤナギさんの事だから、どうせ平然としていると。

そう思い込んでいたばかりに、慌てて屈み込む。

 「すみませんっ、大丈夫ですか!?」

 「ごめん……俺、わざとカヤが傷付くこと言った」

 「何言ってんですか!叩いた俺の方が悪いんです!」

弱ったヤナギさんなんて、久々に見た。

どうにか顔を上げて貰おうと、一生懸命謝る。

しかし、一向に頭を上げないヤナギさん。

水を取ってこようと思ったと同時に、ヤナギさんが立ち上がる。

その時、彼の目に涙が溜まっているように見えた。

 「ごめん、帰る」

 「えっ、ちょっとヤナギさん……」

突如として部屋から出て行ったヤナギさん。

彼を追おうとして、ラグの皺に躓く。

咄嗟に左手を付いた事により、激痛が走った。

指を押さえていれば、玄関から扉の開閉音が。

どうして良いのかもわからず、歯を食い縛る。

左手に力が入り、ますます指先が痛んだ。
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