黒百合の女帝
 そう答える途中、ラクアに腕を引かれた。

何かの用かと思うが、ただの牽制のようだ。

長い前髪を留めている為、その形相が見やすい。

 「ユリ。こっちに行こう」

 「うん。でもその前にヤユに挨拶してきて良い?」

周囲に聞こえぬよう、再び小声で許可を求める。

ラクアは不満そうだが、渋々頷いた。

少しは融通の効くラクアに微笑み、腕を解く。

そしてヤユの元へ向かうと、彼は不安げだった。

 「大丈夫?」

 「うん……僕のこと、誰も怪しんでない?」

 「怯えすぎてて逆に不自然だけど。」

グラウンドの隅にて、木の裏に身を潜めるヤユ。

フードを両手で押さえ、身を屈めている。

彼も私と同様に、元嶺春なのを隠したいようだ。

まあ、彼は私と違い有名人だしな。

 「一応言っておくけど、ヤユがこっちの陣営にいる事は周知されてるよ。」

 「そうなんだけど……やっぱり怖くてえ」

 「そう。取り敢えず、十時には戻って来てね。」

それだけ最後に伝え、ヤユの元から離れる。
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