黒百合の女帝
 飲み物を置きながら、視線を小路から逸らす。

困惑、動揺、怯え。それらを兼ね備えた表現だった。

 「あの男って、誰のこと?」

 「とぼけるんじゃないっ、俺は見たんだぞ!お前が黒髪の男といるのを!今日の6時頃な!」

個室は防音でないと知っているのだろうか?

薄い壁を気にしない小路に、呆れは募るばかりだった。

今回はその思いを隠さず、眉を顰めてみせる。

 「ちょっと待ってよ。なんでそのことを知ってるの?」

 「はあ?ただ偶然見かけただけだよ!他に何があんだってんだ!」

血眼でこの数日間探していた、とか。

佐奈高の反対側に位置する学校へ向かっていたのだ。

当然、彼は私の尾行ができなくなる。

そこでこの数日間、私を探していたのだろう。

そして今日の帰り道、私を見つけたというところか。

 「どうなんだ!あの男は誰なんだ!」

 「そんなに怒んないでよっ。私だって、好きで居る訳じゃないのに……。」

小路の問いに、突然泣きそうな顔を見せるモエ。

という場面を作り出し、両手で顔を覆う。

涙は出る気配もないが、その体勢を維持しておいた。
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