黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 十四時間以上のフライトを終えて到着したヒースロー空港には、光毅さんが迎えに来てくれていた。

「依都、会いたかったよ」

 私を見つけて足早に近づいてきた彼は、ひと目をはばからずにふわりと私を抱きしめた。

「ちょっ、ちょっと、光毅さん!」

 ぺしぺしと彼の腕を叩いても我関せず。周囲の目が気になるし、彼と密着していることが恥ずかしくて頬が熱くなる。

 たった数日の間離れていただけなのに、この熱烈なお出迎えはなんだろう。
 たしかに自宅でゆっくりしている時間はくっつきたがる人だと思っていたが、さすがに外では手をつなぐ程度だ。

「はあ」

 少し体を離して、光毅さんが私の顔を覗き込む。

「依都は海外に慣れていないから、心配していたんだ」

 そう言いながら、頭をポンポンと叩いてくる。
 まさか、私が無事に到着したという安堵からのこの熱い抱擁だったのかと脱力した。

「私、子どもじゃありませんから!」

「俺にこんな大きな子はいない」

 思わず言い返した私に、光毅さんがいたずらな表情をしながらへりくつで返す。
 むくれた私の額に彼が不意打ちで口づけてくるから、驚いて目を見開いた。

 それから光毅さんは、指で私の唇をさらりとなでた。

「ここはまだ、許してもらえないか?」

「なっ」

 許すもなにもと思いながら、声を詰まらせる。
 どんどん熱くなる顔をうつむかせて、フルフルと首を横に振った。

「なかなか手ごわいな」

 光毅さんは私の手から手荷物を受け取り、「行くよ」と空いた方の手を差し出してくる。それに自分の手を重ね、並んで歩き始めた。
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