黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「……だって」

 涙がジワリと滲む。
 彼からさらに距離を取って、視線を合わせた。

「それじゃあ、楢村さんはどうするの? 地元との良好な関係はもう十分にアピールできたし、再開発も順調に進んでいる。そうしたら、私の存在なんて邪魔になるだけじゃない」

 涙声になりながら、必死に訴える。
 取り乱した姿なんて見せたくないのに、一度決壊したら止まらない。

 彼が困惑しているうちに、続けて捲し立てた。

「地元と上手くやっているとアピールができれば、次の再開発地でも受け入れられやすくなる。だから私と結婚するんだって、あのカフェで楢村さんに言っていたじゃない!」

 最後の方は、責めるような口調になっていた。

 すっかり興奮しきって、肩で息をする。そんな私に、光毅さんは複雑な表情をした。

「ああ……っと、依都。あのとき俺と楢村の会話を聞いていたのか?」

 もちろんだと、きっぱりうなずく。

「それに、光毅さんと楢村さんはプライベートになると気安い雰囲気になるし。彼女が本命の人なんでしょ? あっ、そんな親密な関係にある人に、空港まで私を送迎させるなんてどうかと思う。一歩間違えたら、修羅場だわ」

 この際だと、あの出来事もぶつけておく。気分が昂って支離滅裂になっているかもしれないけれど、どうせ最後なのだからと勢いづいた。

「送迎?」

 イギリスへ行ったときのことだと言うと、「私用であいつを頼ったのは悪かったが、俺はタクシーの手配を頼んだはずだ」と返してくる。

「ちょっと待て、依都。なにか勘違いしているようだが、楢村と俺はそんな関係じゃない」

 私の両肩に手を乗せて説得する光毅さんに、口ではなんともで言えるとジト目を向けた。ここまできたら、もうなにも遠慮する必要はない。
< 160 / 178 >

この作品をシェア

pagetop