黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 それぞれの目的が達成刺されてしまえば、彼にふさわしくない私は別れるべきだと思っていた。

「あれ? じゃ、じゃあ、私は光毅さんをあきらめなくてもいいの?」

 震える小声で、確かめるようにつぶやく。

 この至近距離で、光毅さんがそれを聞き逃すはずがなかった。
 勢いよく体を起こした彼が、真剣な表情で私を見つめてくる。

「依都の気持ちを教えてくれ」

「え、えっと、私も、光毅さんを好きになっちゃった、というか」

 恥ずかしくて、ごにょごにょとごまかす。

「その自信のない言いようはなんだ?」

 もどかしそうに彼が言う。逃げるなと、視線で訴えてきた。

「わ、私も、光毅さんが好き、です」

 えいっと言いきった後、もう耐えられないと彼に抱き着いて顔を隠した。

「やっとだ。糸貫庵が再オープンするまではと言われたときは、どれだけ待たされるのかと途方に暮れたことか」

 それは……と落ち着かない中で思い出す。子どもを作る話だと。
 さすがに早急すぎて、心の準備がなにもできていない。

 彼の胸もとから、恐る恐る顔を上げる。

「まずは、こ、恋人から――」

「お互いのことは、もう十分に知り合った」

 またこのぶった切る感じかと、焦りが募る。

「私、恋愛は初心者なので――」

「どれだけ一緒にいたと思ってるんだ。ふたりで暮らして、時間の許す限り密着して。デートもしただろ? 抱きしめたり口づけたり、初歩段階はとっくに済ませている」

 これほど長く清い関係でいるなんて学生でも珍しいんじゃないかと、不服そうに彼が言う。
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