黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 このまま反対を続けて、果たして経営が成り立つのかと不安になる瞬間は何度もある。それは口にしないだけで、祖父母や由奈も同じだろう。

 今はまだ、宇和島リゾートは更なるエリア拡大を目指してこの辺りの住民からも理解を得る努力を続けている。だからここで賛成に回れば、よい条件で土地を買い取ってもらえるかもしれない。

 反対を押し通し続けた結果、あちらが買収を断念したらどうなる?
 万が一経営が傾いても、土地が売れる保障はなくなる。もしくは、安く買い叩かれる可能性だってある。おそらく、宇和島リゾートはその迷いを突いてくるだろう。

 社長は善人に見えたけれど、あちらだってボランティアじゃない。最終的には、会社の利益を優先するはずだ。

 私の思いが、覚悟の足りない反対だとわかっている。それでもここで育った私としては、多くの人に愛されてきた糸貫庵を残したいと強く願う。

「従業員の雇用も守らないといけないでしょ? それを考えたら、簡単にあきらめられない」

 経営者サイドとして守るべきものがたくさんあるのだと、あらためて口にする。

「まあ、そうだな」

 賛成派に回って旅館を畳むことになったとき、従業員には規定通りの退職金しか出せない。

 行く当てのある人や、料理人の大和のように手に職のある人はそれほど困らないだろう。
 でもそうでない人は、この先苦労が絶えないかもしれない。私たち家族だって同じで、祖父母も懸念しているはず。

「必ず、糸貫庵を守りたい!」

 私はまだ糸貫庵のためになにもできていない。
 由奈だって、せっかく女将になると努力を重ねているところだ。旅館がなくなってしまったら、彼女のがんばりが無駄になる。
 絶対にあきらめないと言葉にすることで、自身を奮い立たせた。



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