黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「どうして俺にひと言も相談しないんだ」

 翌日の午後になり、まだ残っていた荷物を片づけていたところに大和がやってきた。

「ちょっと、大和! 乙女の部屋にノックもなく勝手に入って来るなんて失礼すぎる」

 お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないと怒ってみせた私に、大和は不満を隠さない。

「俺は依都の弟になった覚えはない。それよりも、これはどういうことなんだ」

 午前中に届いたばかりの段ボールが積まれた一角を、大和がジロっと睨みつける。
 私が仕事を辞めて戻ってきたと、大和は祖父母から聞いたようだ。

「どうって、実家に戻ってきたのよ」

「もっとちゃんと考えろよ」

「十分に考えたんだよ」

 ヒートアップする彼に、努めて冷静に言い返す。
 退職したことに後悔はまったくないものの、不機嫌な大和を目の前にするとなぜか後ろめたく感じた。

「だからそんな一大決心をする前に、どうして俺に話してくれなかったんだよ」

 ふいっと視線を外した大和に、彼は拗ねているのだとピンっと来る。
 体ばかり大きくなったのに、こういうところは昔のままだと密かにほっこりした。

「ごめんね。大和はいつだって私たちの力になってくれるし、糸貫庵にもすごく貢献してくれているのに。今回のことを、私ひとりで決めちゃって」

 口調を和らげた私に、再び大和がこちらを見る。
 彼にはお世話になってばかりなのに、たしかに不誠実な伝わり方になってしまったかもしれない。これから一緒に働くのだし、配慮が足りなかった私が悪い。

「大和が気にかけてくれるのは、本当にありがたいって思ってるんだよ。でも、私がいつかは糸貫庵に戻るって決めていたのは知っていたよね? それが今だっただけ。見切り発車みたいな思いつきで、退職を決めたわけじゃないから」

 状況を説明してようやく納得してくれたのか、大和の表情が緩む。

 「今後は私も糸貫庵の一員としてがんばるから、よろしくね」

 「ああ。依都と働けるのは楽しみだ」
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