黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 気を張っていたせいで、話している彼を見つめながら眉間にしわが寄る。

 次の瞬間。こちらを向いた宇和島社長と視線が絡み合った。
 ほんのわずかな間、彼は私に視線を止めた。そして次の瞬間には、何事もなかったかのように全体を見回しながら話を続ける。

「――それぞれ事情は違うでしょう。個別に相談、話し合いは随時受け付けております。不安があれば、我々になんでもおっしゃってください。一緒によい解決策を見つけていきましょう」

 ぐっと握り込んだ手もとに視線を落として、あれこれ思案する。

 冷静になって考えてみると、今後について確実に保証するとはひと言も言われていない。相談に乗ると提示しただけだ。

 土地の特色を生かす件も再雇用の話もあくまで希望的観測にすぎないのに、聞いているうちにそうしてもらえるものだと信じそうになる。

 ここで宇和島リゾートの提案に乗ったら、糸貫庵はどうなるのだろう。
 土地を買い上げられ、すでに建設が始まっているエリアで目にしたように建物はすぐに取り壊されてしまうのか。
 それではリニューアルオープンする温泉街に、糸貫庵はかけらも残らない。
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