黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 ひと通り反対派の意見を聞き終えたところで、初めて宇和島社長が口を開いた。

「私たちは、皆さんを追い出そうとしているわけではないんです。新しい中にも、地元ならではのものを残していきたい。そうでなければ、日本全国どこへ出かけても同じ風景の中で同じ体験しかできない」

 さっきまで意見が飛び交っていたが、社長が話し始めた途端に静まり返る。

 彼の振る舞いに全員がのまれているのか、それとも静かなのにどこか自信に溢れた声音に絆されたのか。

「先ほど出た採用の話ですが、おっしゃる通り私どもに確実な権限があるわけではありません」

 ほらみろと、小さなざわめきが起こる。
 そんな中でも、宇和島社長は少しもうろたえない。彼の真摯な眼差しに、再び皆が口をつぐんだ。

「しかしながら誘致したどの企業にも、地元の特色を生かしたレジャーを作っていきたいというコンセプトを周知して、賛同を得てきました。それには地元住民の協力が必要だとも、納得されています」

 先ほどの社員も同じ説明をしていた。それに対して反対派はさらに意見をぶつけていたが、語る人が変わっただけなのに皆聞き入ってしまっている。

 彼には人を惹きつけるなにかがあり、この人が言うのだから間違いないと無意識のうちに錯覚しかける。
 けれど本当に鵜呑みにしていいのだろうか。安易に流されてはいけないと、思い込みを振り払った。

 糸貫庵を守るためには隙を見せてはいけないし、相手の弱みを見抜く必要がある。この人が私たちをだましているわけではないと確証が得られなければ、歩み寄ることもできない。
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