黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「そうでしたか。ご家族には、いつもお世話になっております。こちらの話にしっかりと耳を傾けてくださり、ありがたいばかりです」

 それでも賛成はしてくれない、という苛立ちは微塵も感じられない。それがなんだか意外だが、こういうところに反対派の人間ですら惹きつけられてしまうのかもしれない。

「不安はなかったんですか? 勤め先を退職することに」

「いいえ、ありません。私には、糸貫庵を守り抜いていくという目標がありますから」

 相対する人に宣言するにはおかしな気もするが、かまわない。こうして口にしていないと、不安に呑み込まれてしまいそうだ。

「その目標を断念したとき、あなたはどうするのか……」

「え?」

「いえ、なんでもありません」

 彼の穏やかな表情は変わらない。けれどその瞳の奥には、私を非難する雰囲気を感じる。

「それでは、今後ともよろしくお願いいたします」

 さっきはなにを言いかけたのかと問い返す前に、話を切り上げられる。

 私の方が明らかに年下なのに、宇和島さんが丁寧に頭を下げる。それからすぐにほかの人に話しかけられて、善人そうな笑みを浮かべながら応じていた。
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