黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 説明会から十日が経った頃、休みを利用して市街地まで買い出しに出ることにした。
 昼間だと言うのに外は思ったよりも寒くて、ぶるっと体が震える。

「それじゃあ、ちょっと出かけてくるね」

 由奈に声をかけて外へ出ると、旅館の裏口のところで仕入れ業者と話をする大和に出くわした。
 話を切り上げた大和が、こちらへ近づいてくる。

「買い出しか? 俺が休みの日に、車で連れていってやるのに」

 自分も運転免許を取得しておけばよかったと、こちらに帰ってから痛感させられている。

「それを待っていたら、いろいろときらしちゃう。また今度、タイミングが合ったらお願いするね」

 そこまで見送ってやると言う大和と並んで、ゆっくりと歩く。
 通りに出たところで、足を止めた。

「気をつけろよ。依都は小せえんだから、持てないほど買うなよ」

 大和が私の頭を雑になでる。

「もう! 大和はひと言多いのよ。ああ、髪がぼさぼさになっちゃうじゃない」

 可愛くない弟だと愚痴を言いながら、乱れた髪を手櫛で直す。

「だから、俺は依都の弟じゃない。じゃあ、本当に気をつけて行って来いよ」

「はいはい」

 手をひらひら振って戻っていく大和の背中を、不満を隠さない顔で見送った。
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