黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 のどかな田舎の風景も大事にするべきだが、それだけでは目新しいものに太刀打ちできないのも当然だろう。
 そこで数年前に、町を挙げて地域一帯を再開発する話が持ち上がった。名乗りを上げたのは、観光地の再開発で数々の成功実績を上げている『宇和島リゾート』だ。

 地元住民の中には早々に賛成をして土地を手放し、すでにほかへ移り住んだ人たちもいる。
 一方で私たちのように、古きよきものを壊したくないと反対を続ける者もいる。

 再開発の成功事例はもちろん知っている。けれどこれまでとは一変した賑やかすぎる様相を目にして、とても賛成はできなかった。宇和島リゾートの手にかかれば、地元の住民たちが長く守ってきたものは跡形もなくなるだろう。

 実家のある温泉街の一部では、すでに一年以上も前から新しいホテルなどの建設が始まっている。そんな中でも反対派は営業を続けているが、その騒々しい環境にますます客足が遠のいているのは否定できないだろう。

 糸貫庵はどうなるのか。祖父母はもちろんのこと、これから旅館を背負って立つ由奈の悩みは大きいに違いない。

 由奈も気がかりだが、彼女が抜ける分、祖母への負担が大きくなるのも心配だ。


『なんとかやっていけているから、依都は心配しないで』

「うん。仕事が一段落ついたら、顔を出すから」

 安心できる材料なんてひとつもない。そんな不安を悟られるように、明るい口調で通話を終えた。
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