黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 実家を出たことに後悔はないものの、遠く離れていてはなにも手助けができない。それがとにかくもどかしくて仕方がなかった。

 それからも大和や祖母から状況を聞きつつ、私はずっと悩み続けていた。
 ちかく仕事で大きなイベントが入っていたために連休が取りづらく、実家には帰れていない。電話で話をした由奈の声は明るかったが、それがカラ元気なのは顔を見なくてもわかってしまった。

 家族の危機に、なにもできない自分が情けない。日に日にそんな思いが強くなっていき気分が沈んだ。
 連休を使って帰省をしても、一時の手助けにしかならない。それに学生の頃はバイトとして仲居の仕事を手伝っていたが、本格的な指導を受けていない私では由奈の代わりは務まらない。

 長期的にサポートするには、仕事を辞めて実家に戻るしかないだろう。表に立つ仕事はできなくても、事務的な作業や掃除のような直接利用客と接することのない業務ならできる。それに、実家の家事などプライベートなサポートも可能だ。

 実家を出ると決めたときから、いずれは帰って旅館の仕事を手伝いたいと考えていた。
 それはもう少し先の話だと思っていたけれど、再開発の話が持ち上がってからというもの焦りばかりが募っていく。

 今このタイミングで区切りをつけるべきではないか。ようやくそう結論づけた私は、これを機に会社を退職して実家に帰る決意を固めた。


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