黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 駅で彼と別れ、やってきた電車に乗り込む。

「本当に結婚するなんて」

 予定外だったと心の中で嘆きながら、閉まった扉に頭を預けた。

 彼は結婚も仕事だと割りきっているから、こんなにも簡単に話を進められるのだろう。
『俺に堕ちろ』なんて言ったのも、私が自分の言いなりになれば都合がいいからか。自分にすっかり夢中にさせて、放っておこうが浮気をしようが文句を言わせないようにさせるつもりかも。

 あの人の思惑はどうであれ、家族が大事にしてきた糸貫庵は名前と建物だけでも残せる。おまけに由奈を女将として雇ってくれるなんて、想定以上の成果が得られたのだから文句はない。

 光毅さんが本当にそれを実現してくれるのかを、しっかり見届けなければならない。そうしてお互いの目的が達成されたとき、こちらから離婚を切りだせばいい。私が用なしになれば、彼も別れをすんなり認めてくれるだろう。

「絶対に、好きになんてならないんだから」

 自身に言い聞かせるように小声でつぶやいた。

 抱きしめられただけで動揺する自分が情けない。なんて反省しているそばから、そのときに感じた彼の熱を思い出して頬が熱くなった。


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