黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 再開発予定地での説明会は、もどかしさとの戦いになる。

 社長という立場で、説明会や現地の視察に何度も足を運ぶ人間は珍しいのかもしれない。
 俺としても時間的に厳しいが、その立場が住民の関心を引き、言動が心を揺さぶるのは間違いない。すべて打算でしているにすぎず、実際に成果が出ているのだから続けているだけだ。

 最初は敵対心をむき出しにしていた住民らも、顔を合わせるたびに徐々に打ち解けていく。そうして信頼関係ができると、初めてこちらの考えや条件に耳を傾けてもらえる。

 時間の限り尽くす俺を見て、誠実だと評してくれる人もいる。捉え方はひとそれぞれで、一度狙いを定めたら決してあきらめないハンターのようだと言う人もいる。

 回りくどいやり方だが、ここで理解を得られなければ話は進まないから仕方がない。

 だが、時間をかけて丁寧に応じていても、後になってそんなつもりはなかったと騒ぐ人間も一定数いる。
 例えば久しぶりに帰省した店主の子や孫だったり、目の前に積まれた金に目がくらんで早々に合意した人間だったり。

『お前に人の心はあるのか!』

 継ぐつもりはないと明言している息子が、よくそんなふうに言えたものだ。

『お前のせいで、俺はなにもかも失ったんだ』

 手にしたはずの金は、ギャンブルや毎晩欠かさない刺激的な泡となって消え失せたと聞いている。離婚した元妻は、『夫が働かなくなった』と嘆いていた。手もとになにもなくなった不安を、俺たちに不満というかたちで向けてきたのだ。

 そんな暴言は、もう何度もぶつけられてきた。
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