黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
『店は年老いた両親の生きがいだったのに』

『はした金ですべて奪うなんて』

 俺に対して、そんな見当違いな恨みを抱く。
 自分たちは被害者で、宇和島が詐欺まがいなやり方ですべてを巻き上げたと信じ込まなければやっていられないのだろう。

 もちろん、こちらは相手を騙すような真似などしていない。最初から丁寧に説明を続けて、意思を確認した上で契約を結んでいる。

『光毅さんがあんなにも酷い言われようをされるなんて、許せません』

 いつもそうやって俺を擁護してくれるのは、秘書の楢村美咲(みさき)だ。幼馴染でもある彼女は俺の弟の斗真(とうま)と婚約中で、近い将来には義妹になる。

 海外赴任中の斗真は幼少期から俺を慕い、楢村と一緒になって支えていくと言ってくれている。ふたりともそのための努力は惜しまず、彼女は俺の秘書という地位を自力で掴み取った。

 そんな間柄にあるため、プライベートになると途端に砕けた雰囲気になるがそこに他意はない。彼女が俺を名前で呼ぶのは、斗真との区別でしかない。さすがに幼少期のように〝こう兄〟とは呼べずそうなったが、重役や秘書課の人間など周囲は事情を知っている。

『光毅さんは、地元にあんなにも尽くしているのに』

 悔しそうな顔をする楢村に苦笑する。
 そう受け取ってくれていることはありがたいが、嘆いても仕方がない。それに、俺だって善意だけで動いているわけではない。

 すべての人の賛同を得るなどできるはずもなく、多少悪く言われるのは織り込み済みだ。
 本当に良いと判断すれば、多少費用がかかろうとも残していく。だが、中には切り捨てざるをえないものもある。
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