黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 それから依都とふたりきりで対面したが、彼女は想像以上の用心深さを見せる。

 けれど、それも好都合。しばらくの間は依都の前でもいかにも善人ぶった振る舞いするのかと面倒に感じていたが、本当の自分を知ってもらうためにも素を晒してしまえばいい。

 迷いを見せる彼女も、糸貫庵の処遇に加えて若女将の雇用の話で態度を変えた。

 ほかの従業員の再雇用も念頭に、若女将に取りまとめてもらえば人間関係がスムーズにいく。それに女将に容姿がよく似た彼女の存在は、糸貫庵と同様に贔屓にしている客へのアピールにもなる。外国人観光客向けの旅館に作り替えるとはいえ、彼女が広告塔となれば目にする常連客もいるかもしれない。

 社内ではもとから予定されていた提案だと知らない依都は、俺の権限による妹の再雇用の確約が後押しとなって求婚を受け入れた。

 自分が言える立場ではないが、依都は他人を簡単に信じすぎやしないかと心配になる。が、これもまた好都合。
 結婚後も淡白な関係でいるように、依都が必死に話を誘導しようとしているのはバレバレだ。

 糸貫庵を盾に取られたという、恨みもあるのだろう。それに、まだ自分の気持ちが伴っていないのに話が進んでいくことが不安なのかもしれない。

 だますような手口を使った罪悪感は、これからとことん彼女を愛し尽くしていくことで許してほしい。
 
 まずは彼女にどう迫ろうか。
 俺に嗜虐趣味はなかったはずだが、依都がうろたえる姿が目に浮かんで思わず笑いが漏れた。
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