甘えたがりのランチタイム

「あはは。むしろして欲しいくらいだよ。ご飯を作ることが当たり前になって、お礼も言われなくなると、作った食事があまり美味しくないというか……」
「……もしかして、今の彼氏さんのこと？」

　思わず本音を口にしてしまい、ハッとしたように口を塞いだ。

「あっ、違うの！　なんでもないから、気にしないで」
「……あの、西園さんにはいろいろ気にかけてもらったし、俺で良ければいつでも話を聞くからさ」

　先ほどの頭に載せられた手の感触を再び思い出し、朝からなんとか堪えてきた感情が崩れ落ちる音がした。

「実はね、彼が……今日帰ったら話があるって言うの」
「えっ、それってもしかしてプロポーズとか？」

　目を見開いた裕翔に、茉莉花は苦笑した。

「あはは……だったらいいんだけどね。さっきも愚痴っちゃったけど、なんか彼とすれ違いばかりで、たぶんこのまま結婚してもそのすれ違いは埋まらないと思うんだ。きっと彼もそう思ってる気がする……」
「……まだわからないよ」
「ううん、わかる。今日『別れよう』っていわれるんじゃないかな……」

　口に出して、ようやく実感が湧いてきた。我慢してきたはずの涙が溢れて止まらなくなる。

　慌てて持っていたハンカチで顔を覆い、周りから怪しまれないように下を向いた。

「ご、ごめんね！　せっかくのランチタイムだし、風見くんが作ってくれたお弁当を食べているのに、しんみりしちゃって……」
「西園さん、はい、口開けて」
「えっ、口？」
「ほら、口開けてあーんして」

　目を瞬きながら、言われるがまま口を開けると、チーズハンバーグが口の中に放り込まれた。柔らかくて、濃厚なチーズの味に思わず酔いしれる。

「美味しい……」
「チーズを二種類混ぜてるからね。他では食べられない、風見スペシャルだよ」
「すごいネーミング！　でも本当に美味しい……」

　クスクスと笑う茉莉花に、裕翔は優しく微笑みかけた。

「お腹が空いていると悲しくなるって、昨日西園さんが教えてくれたんだよ。だからお腹いっぱいになって、悪い考えを忘れちゃおう！」

　あぁ、そうか。確かにそう言ったっけーー同じことを言われ、思わず苦笑いをした。

「ただの取り越し苦労かもしれないし、それでも実際に悲しいことがあったら、俺にすぐ連絡して。そうすれば猛スピードで西園さんの元に駆けつけるよ。今度は俺が西園さんを助ける番だからね」
「……うん、ありがとう……」

　もし想像していた通りのことが起きたとしても、一人で悲しまなくていいと言われているようで胸が温かくなる。

　裕翔が作った弁当を食べるたびに、体と心に元気が戻ってくるような気がして、頬が綻ぶのを感じた。