甘えたがりのランチタイム
* * * *

 ある程度とはよく言ったものだ。茉莉花からすれば、裕翔は普通に料理が出来るレベル以上だった。手際良く野菜を切り、片付けも終わらせていく姿に、思わず感嘆の声が漏れる。

「すごいよ、風見くん。私の理想の彼氏像そのまんまだよ!」
「えっ、そうかな?」
「だって茉莉花ちゃんの彼氏、料理は何もできないんだもんねー。いつもここで愚痴ってるもの」
「千佳子先生ってばー。でもそうなの、たまには作ってくれたら嬉しいなぁなんて期待した時期もあるけど、それは自分を追い込むだけだからやめることにしたし」
「そうそう。過度な期待をするより、思いがけない優しさにときめいた方が楽なのよー」
「本当にその通り!」

 この日のメニューは、以前茉莉花がリクエストしたロシア料理のピロシキとボルシチで、調理を終えた三人はお喋りをしながら食事を楽しむ。

 すると裕翔は茉莉花をじっと見つめ、にっこりと微笑んだ。

「俺もこの時間のレッスン、毎週通いたいな」
「あらっ、気に入ってくれたの?」
「はい。千佳子先生と西園さんと話してる時間がすごく楽しかったから」
「本当? そう言ってもらえたら、私もすごく嬉しいな」
「じゃあ茉莉花ちゃんと裕翔くんは、この時間のレギュラーの生徒さんってことで決まりね!」

 茉莉花と裕翔は顔を合わせるなり、クスクスと笑い出す。

「これからよろしくね、西園さん」
「うん、よろしく。仲間が増えてすごく嬉しい。入ってくれてありがとう」

 なんだか居心地が良い……気を遣っているわけじゃないのに、穏やかな気持ちで会話が進んでるーーそう思ったとき、千佳子先生がお気に入りのアンティークティーカップを使い、食後の紅茶を淹れてくれた。その香りにうっとりと目を細める。

「二人、すごく似てるわよねぇ。今日見ていただけでもそう思っちゃった。本当は二人が付き合ったらお似合いなのになぁって思うけど、二人とも恋人持ちだから、そんなこと言えないけどねー」
「でも友だちとして、すごい仲良しになれるってことかな?」

 裕翔の言葉が嬉しくて、とても照れ臭かった。

 この日から、二人の関係は"同期の社員の中の一人"から、"同じ料理教室に通う同期"へとステップアップしたのだった。
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