甘えたがりのランチタイム
2 お揃いの食器
スマートフォンの電子音が鳴り始め、茉莉花は寝ぼけ眼のまま手だけを動かし、アラームを止めようとした。
しかしなかなかスマートフォンが見つからず、諦めてムクっと起き上がると、ベッドのヘッドレストとマットレスの間にスマートフォンが挟まっていることに気付いた。茉莉花はため息をつきながらスマートフォンを引っこ抜くと、停止ボタンを押した。
生地の薄い水色のギンガムチェックのカーテンからは、柔らかな朝日が差し込み、部屋全体を明るく照らしている。
アラームのボリュームは一番小さな音だし、決してうるさいわけではないが、早く消さなければ正樹に文句を言われてしまうーーそう思って隣を見たが、今日も帰ってきた形跡はなく、カレの布団が夜と変わらずきれいな状態で置かれていた。
今日も帰ってないんだーー手の中のスマートフォンの画面を見ると、正樹からのメッセージが日付が変わってから届いていた。
『友だちと飲んでたら今日も終電逃しちゃって、泊めてもらうことにしたから』
今月に入ってから、一体何回目だろうーー昨夜、彼から『飲みに行く』というメッセージが届いたのは、夕食の準備が終わってからだった。
正樹とは付き合って三年。一人暮らしをしていた茉莉花の部屋に、一年前に正樹が突然転がり込んできて始まった同棲で、心の準備も出来ないまま二人暮らしになった。
最初は困惑したが、二人分の食器を買いに行った時は、期待に胸を膨らんだりもした。そんな関係も今は慣れ、それなりに仲良くやっていると思っていた。
ただ正樹は茉莉花よりも友だちを優先しがちなところがあるので、急に予定が変わったりすることに多少の不満もあったが、それを口に出すことは出来なかった。
以前やんわりと伝えた時に、想像以上に彼が不機嫌になってしまい、不穏な空気が流れるくらいなら自分が我慢すればいいと思ったのだ。
茉莉花はベッドから出ると、冷蔵庫に入れてあった昨夜の夕食を取り出し、電子レンジに入れてスタートボタンを押す。
その間に洗面所に行って顔を洗っていると、出来上がりを知らせるベルの音が、静かに部屋に響き渡った。
熱くなった皿を電子レンジから取り出してテーブルに置き、それを毎日使っている弁当箱へ詰め始める。
もし作るのが自分の分だけなら、こんなに頑張って作ったりしなかったのになーー誰かのために作ったはずの食べ物が、食べてもらうことなく、自分の元へ戻ってくる空虚感と脱力感。
弁当箱を保冷剤とともに小さな保冷バッグに入れる。それから麦茶を注いだ水筒を、会社用のカバンにしまった。
新しく食品を作らずにすむのは楽だが、それとともに、心には小さな傷が増えていく。
正樹のことは好き。だから寂しくて不安になるーーだがその気持ちに彼が気付くことはなかった。
しかしなかなかスマートフォンが見つからず、諦めてムクっと起き上がると、ベッドのヘッドレストとマットレスの間にスマートフォンが挟まっていることに気付いた。茉莉花はため息をつきながらスマートフォンを引っこ抜くと、停止ボタンを押した。
生地の薄い水色のギンガムチェックのカーテンからは、柔らかな朝日が差し込み、部屋全体を明るく照らしている。
アラームのボリュームは一番小さな音だし、決してうるさいわけではないが、早く消さなければ正樹に文句を言われてしまうーーそう思って隣を見たが、今日も帰ってきた形跡はなく、カレの布団が夜と変わらずきれいな状態で置かれていた。
今日も帰ってないんだーー手の中のスマートフォンの画面を見ると、正樹からのメッセージが日付が変わってから届いていた。
『友だちと飲んでたら今日も終電逃しちゃって、泊めてもらうことにしたから』
今月に入ってから、一体何回目だろうーー昨夜、彼から『飲みに行く』というメッセージが届いたのは、夕食の準備が終わってからだった。
正樹とは付き合って三年。一人暮らしをしていた茉莉花の部屋に、一年前に正樹が突然転がり込んできて始まった同棲で、心の準備も出来ないまま二人暮らしになった。
最初は困惑したが、二人分の食器を買いに行った時は、期待に胸を膨らんだりもした。そんな関係も今は慣れ、それなりに仲良くやっていると思っていた。
ただ正樹は茉莉花よりも友だちを優先しがちなところがあるので、急に予定が変わったりすることに多少の不満もあったが、それを口に出すことは出来なかった。
以前やんわりと伝えた時に、想像以上に彼が不機嫌になってしまい、不穏な空気が流れるくらいなら自分が我慢すればいいと思ったのだ。
茉莉花はベッドから出ると、冷蔵庫に入れてあった昨夜の夕食を取り出し、電子レンジに入れてスタートボタンを押す。
その間に洗面所に行って顔を洗っていると、出来上がりを知らせるベルの音が、静かに部屋に響き渡った。
熱くなった皿を電子レンジから取り出してテーブルに置き、それを毎日使っている弁当箱へ詰め始める。
もし作るのが自分の分だけなら、こんなに頑張って作ったりしなかったのになーー誰かのために作ったはずの食べ物が、食べてもらうことなく、自分の元へ戻ってくる空虚感と脱力感。
弁当箱を保冷剤とともに小さな保冷バッグに入れる。それから麦茶を注いだ水筒を、会社用のカバンにしまった。
新しく食品を作らずにすむのは楽だが、それとともに、心には小さな傷が増えていく。
正樹のことは好き。だから寂しくて不安になるーーだがその気持ちに彼が気付くことはなかった。