甘えたがりのランチタイム
* * * *

 パソコンの画面をじっと見つめながら、茉莉花は眉間に皺を寄せていた。

「茉莉花ー。そろそろランチにしない?」
「んー……もうちょっとだけ……」

 気持ちが乗ってる今、集中して仕事を終わらせてしまいたいーーそう思っていると、誰かに肩を揉まれる感触がして、勢いよく顔を上げた。

 すると同期の江藤(えとう)羽美(うみ)が、不機嫌そうに唇を尖らせる。

「ダーメ。そんなこと言って、いつも集中し過ぎて食べるのギリギリになるじゃない」

 羽美はそう言うなり、肩を揉む力を強くしたので、茉莉花は思わず悲鳴をあげる。

「痛い痛いー!」

 羽美の言葉は正論で、茉莉花は反論することが出来なかった。

 つい集中してしまうと食事が疎かになってしまうのは、茉莉花のいつもの悪い癖だった。

「わかったよー。続きは昼休憩が終わってからにする」
「わかればよろしい」

 茉莉花はカバンの中から弁当が入った保冷バッグと水筒を取り出し、羽美と並んで休憩室に向かう。

 七月に入ってから、屋外の暑さに耐えられなくなり、昼休憩でも社内から出ようとはしくなってた。それは茉莉花たちだけではないようで、近頃食堂は賑わいを見せている。

 そのこともあり、普段から弁当持参の茉莉花以外の友人や後輩も、昼食を買ってきたり弁当を作ってくることが増えていた。

 休憩室もすでに席が埋まり始めていたが、奥の長テーブルで同期の友人たちが食事をしているのが目に入り、羽美が手を上げて近寄っていく。

「やぁやぁお疲れさん。私たちのために席をとっておいてくれるだなんて、気がきくじゃない」

 羽美は見た目は可愛らしいが、喋るとあまりにも男前な性格になるため、印象が変わるとよく言われていた。

「おぉ、お疲れ。素直に『座っていい?』とか聞けないわけ?」

 苦笑しながら沼田(ぬまた)聖司(せいじ)が隣の席の椅子を引きながら答える。

「とか言いながら、ちゃんと座らせてくれるんだから。沼田くんって優しいよね」

 羽美は隣に座ると、ニヤニヤしながら聖司の背中を勢い良く叩いたものだから、彼は照れたように咳払いをした。

「まぁね。女子には優しくがモットーですから」
「あら、ってことは、沼田くんって相当おモテになるんでしょうねぇ」
「残念ながら、これくらいじゃモテないみたいですよー。それとも江藤が誰か紹介してくれるわけ?」
「残念ながら、私のお友達はみんな彼氏持ちなので無理でーす」

 二人のこうしたやりとりは日常茶飯事で、会話を聞いていると、変わらない友人たちとの関係性に安心する。
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