知らない明日が来たとしても
4.
「……――仕事なんて、適当にこなしていけばいいんじゃないの」
新卒研修の夜、暁から向けられた無気力な眼差しを今でも覚えている。
入社後間もなく行われた一泊二日の宿泊研修。
グループに分かれてテーマに沿った新商品を企画し、役員にプレゼンを披露して評価をもらうというものだった。
一日目の夜、夕飯後の自由時間を持て余した才佳は、研修施設の離れにあるラウンジで一人過ごしていた。
そこにはちょっとした図書コーナーがあり、数はそこまで多くはないが有名なビジネス本は一通り揃えられているようだった。
気乗りのしない飲み会の誘いを断って正解だったと思いながら、前から気になっていたマーケティングの本をいくつか手に取り、席に座る。
誰かと飲むこと自体は嫌いではないが、大勢で騒ぐのはあまり得意ではない。
こうやって一人で好きな本を読んでいる方がよっぽど落ち着く。
誰もいない穴場を見つけたと内心喜んでいると、突然ドアが開く音が聞こえて才佳は思わず身を強張らせた。
「……あれ、えーと……」
「あ! 木崎です。……早川くん、だったよね?」
明らかにこちらの名前を覚えていない様子を察して才佳がそう言うと、相手は気まずそうに頷いた。
暁とは研修のグループも分かれているため、それまで直接会話をしたこともなかった。
何十人もいる同期全員の顔と名前を把握していなかったが、暁のことは周りの女子たちがよく格好いい子がいると騒いでいたので、かろうじて存在は知っていた。
暁もここに誰かいると思っていなかったのだろう。
どうしようか悩んでいる様子でしばらく立ち止まった後、結局才佳の向かい側の席に腰を下ろした。