知らない明日が来たとしても
「あー! ママぁー!」
「エマ!!」
女の子が来たという方向から、母親らしき女性が焦ったように駆けてくる。
待ち切れないとばかりに女の子も走り出し、母親の元にたどり着いたかと思うと力いっぱいにその体に抱き付いた。
「ママ、どこいってたの!」
「ごめんね……よかった、よかった……」
「まいごになっちゃだめなんだよ!」
母親がしゃがみ込み、泣いているのか時折目を拭いながら女の子を抱き締め返している。
しばらくして女の子はベンチにいる才佳を指差した。
「あのおねえちゃんがね、いっしょにいてくれたの」
「ご迷惑をおかけしました。本当に、本当にありがとうございました」
「全然です。えまちゃん、よかったね」
母親に何度も深々とお辞儀をされ、才佳も立ち上がり首を横に振る。
「ありがとう、ばいばぁい」
二人は手を繋ぎ、元来た道を戻っていった。
何度もこちらを振り返っては小さな片手を揺らす様子を、見えなくなるまで見送る。
その手には才佳が渡したキーホルダーが同じように揺れていた。
母親に気付かれた時には、きっとあの舌足らずな話し方で一生懸命に説明してあげるのだろう。
その姿を想像して、口元に笑みが滲んだ。
あの子がずっと幸せでいられますように。
母親を見つけた時のような、きらきらした笑顔が続いていきますように。
そんな思いで胸がいっぱいになった時に、ようやく気付く。
『……本当の意味で、才佳が幸せになれる方法を考えてみてほしい』
昨夜暁が言いたかったことが、やっと分かった。
自分の幸せは、自分の中にだけあるわけじゃない。
たとえ苦しくても傷付いたとしても、誰かの不幸に繋がってまで手に入れるものじゃない。
彼の家族を悲しませることは絶対に出来ない。
そんな当たり前のことを迷っていたなんて。
ベンチに座り直した後、携帯を取り出して崇人の番号を表示させた。
画面を押そうとした指先が震える。
寸前で止まりそうになった時、不意に誰かの気配を隣に感じた。
もちろん他には誰もいない。けれど暁がそばで見守ってくれているような気がした。
深呼吸をして画面をタッチする。
しばらくして呼び出し音が聞こえ始めた。