癒やしの小児科医と秘密の契約
「どうかしましたか?」

「いや、幸せそうに食べるなあって」

「幸せです。お好み焼きは美味しいし、先生と一緒だし。最高じゃないですか。もう今日は仕事頑張ったご褒美タイムだと思ってます」

「ご褒美なら、もっといいもの食べた方がよかったね?」

「何言ってるんですか。何を食べたかじゃないです。誰と食べたかが重要なんですよ。佐々木先生と一緒にいられるなら、水飲んでるだけで幸せです」

隅に寄せていたお冷やを手に取る。ゴクッと一口飲むと、当たり前だけど普通のお水。でも先生と一緒に過ごしているから、このお水も私の思い出の一部となる。

「じゃあ、俺も心和と食べてるから幸せだな」

「なっ……!」

ニコッと爽やかにそんなことを言い放つものだから、ぶわっと体の奥から熱が湧き上がってくる。頬が熱い。思わず両手で頬を押さえた。目の前の鉄板が熱いからってことにしてもいいだろうか。

「心和ってすごくストレートに気持ち伝えてくるくせに、俺が言うとめちゃくちゃ照れるのはどうして?」

「ええっ? だって先生が……」

「うん?」

「……先生のことが好きだからに決まってます」

モニョモニョと小さい声になってしまう。
だって好きだからこそ、好きな人の言葉はすべてときめきの魔法みたいに聞こえるものじゃないの? 
この気持ちが先生にはわからないってことは、やっぱりまだまだ私の想いは一方通行みたいだ。ちょっぴり悔しくて悲しい。

しょぼぼんとしながらお好み焼きを食べる。さっきまでめちゃくちゃ美味しかったのに、少しだけ味が落ちた気がした。

「ねえ、心和」

呼ばれて顔を上げる。

「デート、しよっか?」

大真面目な顔でそう言われて、しばし思考が停止した。

「……えっ? で、デート?」

「うん、デート」

え、何これ。
私、誘われてるの?
嘘でしょ?
夢? 妄想?
イマジナリー佐々木?

「今度の休み、迎えに行くね」

「は、はい」

コクッと頷いたけれど、あまりの衝撃に記憶が飛びそうになった。どうやら私は佐々木先生に翻弄されているようだ。
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