癒やしの小児科医と秘密の契約
9.大人の実感
今日、この日が来るまで、ずっと浮足立っている。というか、まだ実感がわかない。

佐々木先生から「デートしよう」と誘ってくれたことを疑うなんて失礼にも程があるけれど、それだけ私には衝撃的なことだった。

でも逆に考えれば、“お試し”で付き合ってるんだから、デートくらいしないとお互いのことがわからないわけで、佐々木先生なりに私との仲を見定めようとしているのだろうか。

そう考えると、これはデートではなくてテストなのかもしれない。浮足立っている場合ではない。

「はぁぁぁ、緊張するぅ」

「何が緊張する?」

「はっ! 先生!」

「おはよう」

「お、おはようございます」

颯爽と現れた佐々木先生は本日も見目麗しく、朝日を背に眩しいくらいの素敵な笑みをくれる。この光をまともにくらうとクラクラして灰になりそう。

「どうしたの?」

「いえ、先生がかっこよすぎて」

「心和も可愛いよ」

さらっとそんな事を言ってのけるので、どうしていいかわからず固まってしまう。もうテストは始まっているのだろうか。だとしたら、先生の言葉に対応できない私は早々に減点だ。100点が取りたい。

「あの、今日はどこに?」

「最近ちょっと忙しかったから、癒しの旅ってところかな」

「いろいろありましたもんね」

「うん、いろいろね」

なんとなく、ナオくんのことを言っているのかなと思った。先生はきっと心が疲れちゃってるから、今日のデートで少しでも癒しを感じてもらえるように立ち振る舞いたい。

「今日はね、きっと心和が喜ぶところに行くよ」

「私が喜ぶところ?」

「着くまでの秘密ね。さあ、乗って」

佐々木先生はスマートに助手席のドアを開けてくれる。急に恋人感が増したような気がして心臓が音を立て始めた。

ゆっくりと車が走り出し、街中を抜けて高速道路に入る。それだけで何だか旅行気分でわくわくする。先生は一体どこに連れて行ってくれるんだろう。

「見ててもいいよ」

「え?」

「俺のこと。心和にドキドキさせられたい」

「えっ、先生まさか、ドSじゃなくてドMだったんですか?」

「あはは。そうかもしれないね」
< 68 / 120 >

この作品をシェア

pagetop