シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
 その後は、雑談をポツポツとしながら食事を楽しんだ。

「斉木さんは、今の会社に勤めてどのくらいですか?」

「一年ちょっとだな。元々は、工学研究科――工学部の大学院を卒業して、大手で三年ほど勤めていた。だが、知り合いが新しく会社を立ち上げて、そこに引き抜かれたんだ」

 と、いうことは、斉木さんは二十五歳の私より三歳くらい年上なのか。

「引き抜きですか。業界は違いますけど、私も先輩が独立した後、誘われてフリーランスになったんですよ」

 すると、斉木さんは険しい顔付きになった。

「先輩って、工藤さんに急な会議を押し付けた人か?」

「え? あ、理恵さんのことですね。あの時は、ちゃんと交渉すれば良かったです。でも、私にも責任がありますから」

「責任?」

「自由に動けるフリーランスなのに、恩のある先輩に対応できなかったので」

 斉木さんは少し黙った後、独り言のように漏らした。

「どこへ就職しても、どんな働き方をしても、人間関係のいざこざはついて回るものなんだな」
 
「え……」

 何だか、実感がこもっているように聞こえる。斉木さんも、職場の人間関係で苦労した経験があるのかな?
 気になったけれど、ちょうど食後のデザートが運ばれてきて、この話は立ち消えになった。
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