シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
 今日は理恵さんがシェアオフィスに来て、直接打ち合わせをする予定。
 応接スペースで待っていると、十分ほど遅れて理恵さんが現れた。

「理恵さん、お疲れさまです」

「お疲れ」

 向かいの椅子に座り、サングラスを外す理恵さん。顔を合わせる度に、彼女の格好が派手になっていく気がする。まあ、デザイナーは、他の職業に比べて服装の自由度が高いからね……。
 理恵さんが、私のPC画面を指差す。そこには、パティスリーのカタログのデータが表示されている。私がデザインしたものだ。

「咲希ちゃん、早速なんだけど」

「はい」

「このデザイン、クオリティが低いわ。明日の商談までに、一から作り直してくれる?」

「えっ?」

 私は自分の耳を疑った。

「待ってください。この案件は、すでに大幅な修正が二回もあったんですよ。クライアントからヒアリングした要望は、全て取り入れてるはず」

「言い訳はいらないわ。あなたの力不足が原因でしょ」

「そんな。それに、明日までに一から作り直すなんて、無茶ですよ」

「徹夜でも何でもして、仕上げなさいよ。これは咲希ちゃんの責任なんだからね」

 有無を言わせぬ物言いに、ぐっと言葉に詰まる。
 今から全て作り直しても、クライアントが納得するクオリティの物は作れないだろう。どうしたって時間が足りない。

――やっぱり、フリーランスで働くなんて、私には向いてなかったのだろうか。

 心が(くじ)けそうになった、その時。

「それは理不尽な言い分だな」

 聞き覚えのある声がして、私は驚いて顔を上げた。
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