シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
「斉木さん?」

 いつの間にか、私の隣に斉木さんが立っていて、理恵さんを睨み付けていた。

「え……何よ、あなた?」

 突然の斉木さんの登場に、理恵さんの勢いが弱まる。

「俺は工藤さんの友人だ。彼女がパワハラされてる場面を見たら、放ってはおけないからな」

「パワハラじゃないわよ」

 ムッとする理恵さんにも、斉木さんは動じない。

「そうだろうか。ところで、あなたはフリーランス新法を知っているか?」

「ああ、そういうのもあったわね」

 頷く理恵さん。
 フリーランス新法か。名前は聞いたことがある。フリーランスを守るためにできたんだよね。だけど、具体的な内容については、よく分かっていない。

「これは、フリーランスが不当な契約で困らないようにするための法律だ。今のあなたは、それに違反している」

「何ですって?」

「不当な変更や、やり直しの強要。これは禁止行為に当たる。そもそも、修正回数を含めた業務内容は、契約書に記載すべきなのだが……」

 私は「えっ?」と声を上げる。

「理恵さんとは今までずっと口約束で、契約書は貰ったことがないですが」

 斉木さんがふぅっとため息を吐く。

「やはりそうか。現行の法律では、契約内容は記録として残すことになっている。つまり、この女は法律を無視していて、工藤さんが無茶な要求を聞く必要はない、ということだ」
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