シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
「俺にはデザインのことはよく分からないが……それでも、工藤さんが作る物には魅力があると思った。見ていると、どこか優しい気持ちになれる」

 斉木さんはPC画面に目を遣った。理恵さんにボツにされそうになった、パティスリーのカタログデザイン。「洗練された、でも親しみやすさもあるデザインで」との要望に、頭を悩ませながら作ったものだ。

「俺は、良い仕事に価値が付かないのが許せなかった。それだけだ」

「斉木さん……」

 そんなこと、初めて言われたよ。嬉しさに、瞳に涙がじんわりと(にじ)んだ。
 斉木さんが私の顔を覗き込む。

「初めて会った時は厳しいことを言ったが、工藤さんは仕事に真剣に取り組み、その成果はデザインに表れている。だから、自信を持て」

 そして、彼の腕がスッとこちらに伸びてきたかと思うと――、がっしりとした大きな手が、私の頭を撫でていた。

「え……?」

 突然のことに、何をされているのかが理解できず、私はぼんやりと斉木さんの顔を見上げる。
 優しい手つきで頭を撫でるその手は温かくて……思考が停止したまま、私はただ心地良さだけを感じていた。
 そんな私を微笑んで眺めていた斉木さんだったけど、

「――っ!」

 ハッと我に返ったように目を見開くと、私の頭から手を離した。

「す、すまない。俺は君との距離感を間違えてしまったようだ」

 頬を赤く染めて目を逸らす斉木さんに、私はまだポカンとして何も言えないまま。

「そろそろ会議の時間だから、俺はこれで失礼する」

 斉木さんは焦ったようにそう言うと、くるりと背を向けてオフィスエリアへと足早に歩き去って行った。
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