シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
「そんなに慌てて、何かあったのか?」

 男性のクールな声に、波立つ心がちょっと落ち着く。
 顔を上げると、彼の凛々しい眼差しが私を捉えた。二十五歳の私より少し年上だろうか。スラリと背が高く、サラサラの黒髪が似合うイケメンだ。
 彼の背後にあるドアに、社名の書かれたプレートが貼ってある。見たところ、どうやらIT企業らしい。

「あの、今、困ったことになってしまって」

「どうした?」

 男性は首を傾げているものの、私の話を聞いてくれるようだ。
 もしかしたら、この人が私を助けてくれるかもしれない。

「実は……」

 焦るあまりにそう都合良く解釈した私は、今の状況を彼に説明した。

「と、いうわけで、オンライン会議ができる場所を探してるんですが……」

 すると、男性は眉をひそめた。次いで、不愉快そうにため息を吐く。

「え、あの……?」

 男性の突然の変化に戸惑っていると、彼はきっぱりとした口調で聞いた。

「君はフリーランスだろ?」

「はい」

「それなら、もっと主体的に動いた方がいい。客に使われる存在にはなるな」

「!」

 驚く私をよそに、男性はさっさと歩き去ってしまった。

「何よ、あの態度……あっ、そんなことより、急いで会議の場所を探さなきゃ!」

 私は込み上げるイライラを何とか抑えると、スマホを取り出して周辺の検索を始めた。
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