シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
 男性は「用はないが……」と前置きしてから、きっぱりと言った。

「たまたまそのパンフレットが目に入って、足を止めただけだ。俺にはクリエイティブな仕事はできないから、純粋にすごいと思う」

「えっ!?」

 男性の口から褒め言葉が出るとは予想していなかったので、私は大げさに驚いてしまった。

「どうした。そんなに大きな声を出して」

 首を傾げる彼に、本音を告げる。

「だ、だって、私、あなたに良く思われてないから……」

 すると男性は、気まずそうに顔をしかめた。

「別に、君を嫌ってるわけじゃない」

「あ、そうなんですか」

 それもそうか。あの時は、私の仕事に対する姿勢を注意されただけで、私自身がどうこうってことではないんだよね……割り切るのは難しいけど。
 ちょっと安心したからだろうか、私のお腹が盛大に鳴った。

「!!」

 慌ててお腹を押さえるも、時すでに遅し。彼にもバッチリ聞かれてしまった。

「空腹なのか?」

 真顔で聞いてくる男性から、思わず目を逸らす。

「お、おっしゃる通りです……」

「それなら、何か食べに行くか?」

「えっ?」

 ポカンと口を開けてしまう私。だって、彼からランチに誘われるなんて、想像してなかったんだもの!
 すると、私のお腹が本日二度目の音を立てた。

「わ〜、すみません! お腹で返事しちゃって」

 慌てて謝る私を見て、男性がクスクスと笑う。

「そうか。早く行こう」

「あ、はい」

 初めて見る男性の笑顔にドキッとする。でも、彼が笑った理由は、私のお腹の音なんだよね……。
 ものすごく恥ずかしいけど、気になる彼と一緒にランチに行けるなら、ラッキーなのかな? 久しぶりに、心が弾むのを感じる。
 私は赤くなる顔を見せないようにして、彼とシェアオフィスを出た。
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