シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
2.惹かれる心
 今日はシェアオフィスの応接スペースにて、クライアントへ制作物を納品する日。
 私はちょっと緊張しながら、向かいの席に座る女性――担当の沢田(さわだ)さんに、一冊のパンフレットを手渡した。

「ご確認お願いします」

「わ〜、可愛いデザイン! データでは確認してましたが、実物の方がずっと良いですね」

 早速褒めてもらえて、内心ホッとする。
 沢田さんはページをパラパラとめくり、うんうんと頷いている。

「こちらの要望通りの、読みやすいレイアウトです。思い切って紙面をリニューアルした甲斐がありました。工藤さん、本当にありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございます!」

 デザインの仕事の醍醐味は、自分の作った物が形になり、こうして誰かに喜んでもらえることだ。完成するまでは苦労も多いけど、やりがいがある。
 これからも私は、デザイナーの仕事を続けていきたいな。

 納品と別案件についての打ち合わせが終わり、私は沢田さんを笑顔で見送ってからテーブルの上を片付け始めた。

「ふ〜ん……」

 すると、突然背後から声が聞こえて、私はびっくりして振り返った。

「あ、あなたは……」

 そこには先日、私を注意した男性が立っていた。私の手元にあるパンフレットを見つめている。

「君はデザイナーなのか」

「はい。えっと、何かご用ですか?」

 あの日から、シェアオフィスで彼を見かける度に少し意識してしまう自分がいた。
 あれきり交流はないだろうと思っていたのに、まさか、向こうから話しかけてくるなんて。
< 6 / 24 >

この作品をシェア

pagetop